JRRCマガジン No.154 著作物等公衆送信に関する諸問題について(3)

川瀬真

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JRRCマガジン No.154  2018/12/27
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「平成」の最後の年末年始を迎え、皆さまにおかれましては
2019年以降も平らかな年であることを願いつつ、今よりも少しで
も良い御年をお迎えいただけますよう心よりお祈り申し上げます。
本メールはこれまでお世話になりました皆さまに、メールでは
ございますが、ご挨拶に代えてお送りすることをご了承ください。

※お詫びと訂正
JRRCマガジン No.153  2018/12/21号に訂正がございました。
最後から3行目「ったと思われる」→「ったかと思われる」です。
お詫びして訂正させていただきます。正しくは次の通りです。
「前述のシャガールの3点はこのようなケースではなかったかと
思われる。このケースが最終的にどのような決着がつけられたか
については詳らかになっていない。」

さて、
本日のメルマガは、「川瀬先生の著作権よもやま話」です。
公衆送信に関する諸問題の続きです。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話 ━━━━━━━━━━━━━

第28回 「著作物等公衆送信に関する諸問題について(3)」
     公衆送信に係る権利制限規定について
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1 はじめに
 デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、インターネット等の
ネットワークを活用した著作物の利用が増えつつあります。このよ
うな利用については、音楽・映像の配信事業や動画投稿サイトのよ
うにビジネスとしての利用も多いのですが、公益等の理由から権利
制限の対象になっている利用もあります。
このネットワークを用いて著作物を提供する行為については、一般
に著作権法上の公衆送信に該当し、原則公衆送信権が働くことにな
っています。この公衆送信については、上演、演奏、上映、口述に
よる著作物の利用と同様、いわゆる無形的利用といわれています。
これは著作物を有形的に再製する複製との関係で使われている用語
ですが、この無形的利用の中でも公衆送信については、権利制限に
対し慎重な取り扱いがされています。
例えば、無形的利用の場合であっても、公衆送信以外の利用につい
ては、非営利、無料(入場料等を取らない)及び無報酬(演奏家、
俳優等の実演家や口述者に報酬が支払われない)のときは、権利制
限の対象となり、無許諾・無償で著作物を利用することができます
(38条1項)。学校の学園祭で行われる軽音楽部の演奏会等がよく
ある例です。
しかしながら、公衆送信については、例えば国や地方自治体、学校
等のHPで著作物を送信する場合のように、非営利目的の利用であ
っても、権利制限の対象にはなっていません。これは、例え非営利
目的であっても、公衆送信による利用は、多数の方に著作物を提供
することになるので、権利者の利益を害する可能性が高いからだと
考えられます。
今回は、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、公衆送信権の
権利制限も徐々に拡大してきているところから、その内容について
身近なものを中心にいくつかの例を紹介したいと思います。
なお、2018(平成30)年の通常国会で著作権法が改正されています
が、その中の重要な改正項目として「デジタル化・ネットワーク化
の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備」があります。これは、
IOT、ビッグデータ、人工知能等の技術革新に対応して、著作物を
集積し、整理し、解析する等の利用が行われていますが、これらの
行為について権利者の利益を不当に害しない範囲で権利制限を行い、
著作物の新たな利用が円滑に行われることを目的とするものです。
この権利制限の中には公衆送信権の制限も含まれますが、紙幅の関
係もあり、その内容については別の機会に説明をします。

2 具体的な例
(1)著作物の写(映)り込みとその利用
 (30条の2 2012(平成24)年条文追加)
 例えば、写真を撮ったり、ビデオ撮影したりするときに、たま
たま他人の著作物が映ってしまうことはよくあることです。例え
ば、家族で遊園地に遊びに行って、子供たちの写真を撮ったらた
またま背後あった有名な漫画の主人公の絵が写ってしまったとか、
ビデオ撮影をしていたら場内に流れる音楽や映像が映ってしまう
というようなことです。この場合、写真やビデオ撮影は、それが
後ほど家族で楽しむためのものであれば、一般に私的使用のため
の複製(30条1項)に該当し権利制限の対象になりますが、私的
使用以外の目的で行われる場合もあるかと思います。
 私的使用目的か、その以外の目的かにかかわらず、撮影の結果
できた作品の利用に当たっては他人の著作物を分離して使うこと
は不可能です。この写(映)り込んだ著作物を著作権法では付随
対象著作物と定義し、当該著作物の複製又は翻案を原則として権
利制限の対象としています(30条の2第1項)。
 また、この権利制限により作成された写真や映像を公衆に提示
又は提供することも権利制限の対象とされています(同条2項)。
例えば、先の事例で言うと漫画が映り込んだ家族の写真を自分の
HP,ツイッター、インスタグラム等の手段を用いて公衆送信す
る場合が該当します。

(2)国立国会図書館における収蔵資料のアーカイブ化とアーカ
イブ化された資料(著作物)の公衆送信等(31条 2009(平成21)
年2項追加、2012(平成24)年3項追加等)
 1970(昭和45)年の現行著作権法の制定時から、国立国会図書館、
公共図書館、大学図書館等の政令で定める一定の図書館等では、
収蔵資料(著作物)を用いた利用者向けの複製サービスや保存の
ための当該資料の複製等が権利制限の対象になっていました。
 この中で保存のための複製については、古書や稀覯本のように
長期間使用されこれ以上使用すると原本が使用できなくなるとい
う状態や資料が汚損や破損している状態等にある場合に当該資料
を複製できるというもので、かなり限定的に解釈されてきました。
 一方、時代の進展とともに、米国ではグーグルが米国等の図書館
から提供された全ての資料をアーカイブ化し、その中から必要な
情報を抽出し、当該情報を利用者に提供する事業が実施され、そ
れに異を唱えた権利者との間で訴訟になりました。これが有名な
グーグルブックサーチ訴訟です。
 このグーグルがアーカイブ化した資料の中には、日本語で書か
れた資料もありましたので、わが国の関係者間では、米国の民間
会社がわが国の知の資産を全てアーカイブ化し、知の独占を図って
いるのではないかという危機感が生まれました。
 そこで、わが国では、わが国の知の資産の集積度が一番高いの
は国立国会図書館であることから、国立国会図書館に特別の地位
を与え、同図書館に納本された資料については、納本後直ちにア
ーカイブ化することができることとしました
(31条2項 2009(平成21)年2項追加)。
 また、3年後には、アーカイブ化された資料の中で、絶版等の
理由により一般の人が入手困難なものについては、他の公共図書
館、大学図書館等に公衆送信すること、また送信先において一定
の範囲内で複製することも権利制限の対象にしました
(31条3項 2012(平成24)年3項追加)。この改正は、情報入手
の地域間格差を解消するもので画期的なものと評価されています。
今まで国会図書館まで出向かないと入手できなかった資料や郵送
で提供されていたものが、ネット経由で、自宅では入手できない
ものの近所にある設備の整った一定の図書館に出向けば、情報の
検索と入手が一体でできるようになりました。特に発行から相当
の期間を経た過去の資料を探している方にとっては情報入手の利
便性が格段に向上したと思われます。

(3)教育機関における授業用資料の公衆送信等
(35条 2018(平成30)年改正後の35条の施行は、公布から3年
以内で、政令で定める日)
 1970(昭和45)年の現行著作権法の制定時から、学校等の教育
機関については、教育を担任する者(教員等)が授業の過程で利
用するために著作物を複製し配布することが権利制限の対象とな
っていました。
 その後、ネットによる授業も行われるようになり、対面で行わ
れている授業の様子やそこで使われている資料(著作物)を、授
業と同時並行して、遠隔地に公衆送信することも権利制限の対象
になりました(現行法35条2項 2003(平成15)年2項追加)。
 (注)この改正時に著作物の利用主体に授業を受ける者
(学習者)を追加
 ネットワーク化が一段と進んだ現在において、政府もICT教育の
推進に力を入れるようになり、ネットを活用した授業をさらに推
進するため、2018(平成30)年の通常国会において著作権法35条
が大幅に改正されました。
改正内容ですが、これまで公衆送信に関する権利制限の対象を対
面授業と同時並行で行われる遠隔地授業に限定していたのを、そ
の限定を取り払い、例えば、授業の様子やそこで使われる資料を
一旦サーバに蓄積(送信可能化)し、授業を受ける学習者がネッ
ト経由で授業時間とは異なる時間にアクセスできることを権利制
限の対象として新たに追加しました。また、対面授業ではなくス
タジオで収録された授業等を同時か異時かにかかわらずそこで使
われている資料も含めて公衆送信することも可能になりました
(改正法35条1項)。
 ただし、先述したように公衆送信については、多数の人に著作
物を提供できるという利点がある一方で、権利者の利益を不当に
害するおそれもあることから、既に無許諾・無償で利用できると
されている対面授業の同時送信以外の公衆送信が行われた場合は、
権利者に相当な額の補償金を支払う必要があるとされました
(改正法35条2項)。
 なお、この補償金請求権については、教育機関の事務的負担等
の軽減を図るため、文化庁から指定された補償金管理協会が権利
者の補償金請求権を一括管理する指定団体方式が採用されていま
す(改正法104条の11~104条の17)。

(4)インターネット試験のための公衆送信
(36条 2003(平成15)年一部改正)
 1970(昭和45)年の現行著作権法の制定時から、入試問題とし
て他人の著作物を複製・配布することは権利制限の対象でした。
例えば、国語の入試問題で小説の一部を利用するとか、音楽の入
試問題に歌詞・楽曲を利用する場合がこれに該当します(36条1項)。
ただし、この場合、予備校が行っている有料の全国共通模擬試験
のような営利目的の試験問題については、権利者に通常の使用料
に相当する額の補償金を支払わなければならないことになってい
ます(36条2項)。
 試験というものは、これまでは試験会場に赴いてそこで試験を
受けるということがほとんどでしたが、これもネットワーク化の
発展を踏まえ、自宅や受信設備がある特別の会場でネットワーク
を使って試験を受けることができるようにするため、試験問題の
公衆送信が権利制限の対象になりました(36条1項 2003(平成15)
年一部改正)。このいわゆるインターネット試験については、例
えば試験日を柔軟に設定し仕事で忙しい受験者の便を図ることや、
試験会場まで交通費や試験・検定料を低く抑えられるなど、受験
者の負担を低減できる方法として、多くの分野で活用されています。
 なお、補償金の支払いについては、これまでと同様の扱いです
(36条2項 2003(平成15)年一部改正)。

(5)オークションにおける出品作品の紹介のための複製又は公
衆送信(47条の2 2009(平成21)年条文追加))
 美術作品や写真の売買等を目的としてオークションが行われま
すが、一般にオークションの前には、作品の内覧会が行われたり、
オークション参加予定者に対し出品作品のカタログが提供された
りします。また、ネットワーク化の進展に伴い、紙媒体のカタロ
グを廃止し、ネットでカタログを提供したりすることも行われて
います。
 オークションの場合、出品するのは作品の著作権者ではなく、
ほとんどの場合、作品の所有者かその代理人です。したがって、
作品の複製や公衆送信に際して、著作権者の許諾が必要とすると
権利者不明の場合や権利者が判明しても許諾が得られない場合が
あり、著作権者の許諾が得られる場合であったとしてもその手続
きが煩雑で時間がかかったり、場合によっては多額の使用料を求
められることも考えられます。
 有体物である出品作品の売買等は、盗品の売買等を除き特に問
題がある行為ではなく普通に行われていることであり、オークシ
ョンの場合、参加予定者が事前に出品作品の情報が得られないこ
とはかえってオークションの正常な実施を阻害することになるの
で、オークションの際のカタログ提供について、複製物による提
供か、公衆送信による提供かにかかわらず、権利制限の対象にな
りました(47条の2)。
 なお、カタログ提供については、参加者に一定の情報を与える
必要性からある程度の大きさや精度を備えたものでなければいけ
ないと考えられますが、一方で、例えば観賞用の図録や映像と同
程度の品質であると、著作物の通常の利用を妨げ、権利者の利益
を不当に害する可能性が高くなったりすることから、政令におい
て定めるそのような危険性を除去するための措置(大きさ・精度
等の制限、保護技術の付加等)を施すことが求められています
(施行令7条の2)。

3 おわりに
例示としては以上です。このほかにも様々な規定がありますが、
ネットワークを利用した著作物の利用はこれからも拡大していく
と思われます。また、その中には権利者の利益を不当に害さない
利用も含まれていると思うので、これからも社会の実態の変化に
伴い、権利制限の拡大もありうると考えます。
これまで何回か公衆送信に係る改正について解説をしてきました
が、今回で終わらせていただきます。次回からは、2018(平成30)
年の著作権法改正の主要な改正事項である柔軟な権利制限規定の
改正に至る経緯や法改正の内容について解説していきます。
 

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